彼氏契約書
「おい、美緒・・・何がどうなってんだ?」

私の腕をそっと下ろし、自分の方に向けた社長。


「・・・・すみま、せん」

今にも消え入りそうな声で、そう呟いた私は、顔を上げる事も出来なかった。


「…美緒、泣いてるのか?」

「・・・ッ」

社長の言葉と同時に、涙が数滴、床に落ちた。


驚いた社長は、私を抱き寄せた。

「何があったか話せ…力になるから」

「・・・・・」

話そうと思っても、後から後から涙が溢れてくる。


…会社に迷惑はかけられない。

仕事に私情は挟めない。

だからこうしたって言うのに、こんなにも苦しいなんて思いもしなかった。


…そんなにも、蒼空に想いを寄せていたなんて、

今頃気づくなんて、遅すぎた・・・。



「…すみません、仕事の要件で来たんですよね」

何とか泣き止んだ私は、いつものように明るい声で言った。


「…美緒、オレには、話せないか?」

「…すみません・・・でも、一つだけお願いがあります」
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