彼氏契約書
そう思い込もうとしたが、目の前にいる二人が、

いや、正確には、美緒さんだけだったが、

僕に気付き、慌てて社長の腕から離れた。

…一体何が起こったんだろうか?

大分高熱にやられていた僕は、すべてを呑み込むのに

数秒かかった。


…もしかしてこれは、ラブシーンと言うものか?


そう思うと、朦朧とする意識が鮮明になる。

「・・・何をしてるんですか?」

若干震えた声で、呟いた。



「違うの、須藤、これは」

美緒さんは慌てて弁明しようとしている。

でも、その言葉は今の僕の耳に入ってくることはない。

それくらい、腹立たしかった。


「…言い訳は聞きたくありません」

僕は踵を返し、その場を立ち去ろうとする。


「待って、蒼空!」

そう言って僕を追いかけ、腕を掴んだ美緒さん。


「…須藤、熱いよ、熱でもあるの?」

「気のせいです、離してください」

そう言って僕は、美緒さんの手を払いのけた。
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