隣の席の姫野くん。
「家、着いたよ」
そのドキドキに気付かれないように、少しだけ声を低くする。
『なに?緊張してんの?』
クスクスと笑う昂。
なんのこと?と強がって見せると、声低くなってるって言ってまた笑われた。
昂にはうそがつけない。
と言うか、誤魔化そうとした時点でバレてしまう。
その度に昂といられることに幸せを感じるんだけど…昂はこんな私で幸せなのかな?
昂がすごくいい人だってわかる度にそう考えてしまう自分が嫌で嫌で仕方がない。
いつか昂に嫌われるんじゃ?と考えてしまっている自分が醜くてしょうがない。
『どした?』
ずっと黙っていた私を不思議に思ったのか、優しい口調で尋ねてきた。
「なんでもないよ!今何してたの?」
不安の上に嘘を塗り重ねて、なかったことにしていく。
本当は隠している行為が、余計に不安を目立たせているって分かってるよ…分かってるけどさ…
『今はね秀ちゃんが風呂に入ってる』
「山下くん泊まってるんだー!」
そこからは世間話を少しして、山下くんがお風呂から上がったら電話を切った。