隣の席の姫野くん。
「…あのう、恵梨子さん…」
「なあに?このみちゃん?」
このみも奏の方が良いっていうのか?
俺は悪いことしか考えられなくなっていた。
「私が、昂くんのものなんじゃなくて、昂が、私のものなんですよ」
このみの言葉に耳を疑う。
「だから何だかよく分からないけど、私に何か印がついてるんだとしたら、それは、まだ昂くんが私のもので居てくれてるって印なんだと思います」
俺も母さんも目を丸くして、奏はつまらなそうにミニカーで遊び始めた。
「すいませんっ!変なこと言っちゃって!!」
このみははっと我に還ったらしく慌て始めた。
何が変なこと、だよ。
すっげえいい女じゃん。
「え、恵梨子さんっ!?」
熱くなってきた目頭に気づかない振りをして二人の方を見ると、さっきよりも強く抱き締められているこのみがいた。
「こっ、昂のことっ、よろじぐね」
何泣いてんだよくそばばあ。
そう思いながら、目にたまりつつあるものをどうにかするために洗面所へと向かう。