隣の席の姫野くん。
遠巻きに呆れたようにみていた、秀平の手がピクリと動いた。
秀平、今だけは俺の嘘に気が付かないで。
「橋田って可愛いじゃん?誰だって一回くらい…なぁ?」
嘘って一回つき始めると、次々と言葉が出てくる。
そんな風に冷静に分析し始める自分が、なんとなく惨めに思えて自嘲した。
「橋田って男に免疫ないのな。ちょっと触っただけで、顔赤くしちゃって。いーよな。純情な子って。どうせならキスのひとつやふたつ位しとけばよかった。」
そういった瞬間、俺の頬には痛みが走った。
「…っ」
目の前にいたのは、川瀬このみ。
今までにないくらい、俺をにらんで
小さくて柔らかくて、でも細く白い手で俺を思いっきり平手打ちしやがった。
「さいってい!のんちゃんにそんなことするなんて…そんな目で見てたなんて…!」
そう言って怒鳴る川瀬の目にはみるみるうちに涙が溜まっていった。
「姫野のことは、他の男と違うって思ってたのに!」
それってさ
「川瀬にとって俺は男に見えてた?」
ここまでの騒動になるなんて予想していなかったらしいクラスメートたちは、息を飲んで俺たちの会話を聞いていた。