幸せならそれでいい
「大きくなったね。受験生だって?」

返事したくないけど
その話し方は昔と一緒
大好きなお兄ちゃん。

「勉強してる?油断したらダメだよ」

「地元だもん。掛け算と割り算できたら誰でも入れる高校なの」

言い返しただけなのに
お兄ちゃんは私が返事をしたのが嬉しいのか話を続ける。

「受験を馬鹿にしちゃいけないよ。自分の為にもよくない。一生懸命勉強しないと後悔するから、もうこれ以上できないってぐらい頑張りなさい」

背中を触る手が優しすぎてまた泣ける。

「桔梗からのメール、返事しなくてゴメンね」

「……お仕事……忙しいと思って遠慮してた」

「うん。仕事も変わって色々あって忙しくて。二年振りに帰って来た」

「水商売?はるな愛ちゃんみたいなの?どっかのゲイバーみたいなの?ケバいオネェさん達と歌ったり踊ったりしてるの?」
真剣に聞くけど
お兄ちゃんは吹き出して笑った。

「歌ったり踊ったりできたらいいのだけれど、今は普通のホステスさん。女性で勤めてる」

お兄ちゃんがホステス。

頭が良くて
国立大学出身で
誰もが知ってる大企業に入って
エリートもエリート
超エリートコースだったのに

なんでオネェなのよ。

「そんなの……すぐバレてヤーさんにボコボコにされるんだから。悪い薬飲まされて中毒になって、臓器とか売られて海に沈んじゃうんだよ」
嗚咽が大きくなり
こらえきれなくなって泣き声に変わってしまう。

「どっからそんな話になるのよ。困った子だね。悪い漫画読み過ぎじゃない?」
笑いながら否定して
そっとお兄ちゃんは私を包み込む。

甘くて品のある
いい匂いがする。
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