吐き出す愛
「ごめん」
「……」
「あいつらが言ったこと、気にしなくていいから。俺も別に、軽い気持ちで佳乃ちゃんに声かけたわけじゃねえし」
じゃあ、どういうつもり?
やたらと馴れ馴れしく話しかけてくる理由がよく分からない。
もともと接点もない。しかも校則を守りすぎている制服姿で地味で冴えない私と、垢抜けた容姿の有川くんは明らかにタイプが違いすぎる。
だから、有川くんがどうしてここまで関わろうとして構ってくるのか意図が謎だった。
茶色い頭が私の顔を覗き込むために傾けられる。
「怒ってる?」
「怒ってるに決まってます! ……でも、」
有川くんの顔をまともに見た。不安そうに見つめられると、余計に意味が分からない。
いつも堂々としている彼が萎れていると違和感しかなかった。
突き放すように、はっきりと告げる。
「……でも、もう二度と私に関わらないでくれるなら怒りません。話しかけられるのも迷惑だから、それさえ守ってくれたらもうどうでもいいです」
切れ長の瞼の下で瞳が丸くなっていた。私はそれだけを見届けてその場を立ち去る。
……最悪だ。
あんな人と隣の席になったなんて運が悪すぎる。
おまけに今日が中学校生活最後の席替えだったから、卒業まであの人とは離れられない。
最後の席替えで初めて隣に座った人が、よりによってあんな人だったなんて……。
今日初めて話したけど、あの人はやっぱり私の嫌いなタイプだった。
そう思うと気が重くてしょうがない。
私は溜め息を吐きながら教室に戻ったけど、有川くんは4時間目の授業までには戻ってこなかった。
結局授業が始まっても空白のままだった席に、ちょっとだけせいせいした。