吐き出す愛
だいぶ、人が増えてきたなあ。
大学最寄りの駅。その西口に隣接して建っているコーヒーショップに入って、かれこれ2時間が経つ。昼過ぎに入ったときよりも、店内の客席に居座る人が増えたように思う。
まあ、私もその一人だけど……。
道路に面した窓際のカウンター席。
そこで一人で過ごすことがお気に入りになってから、もう1年が経つ。
地元から電車を乗り継いで3時間のこの街の大学に通うのも、この4月で2年目に突入した。
大学への進学をきっかけに、実家を出て始めた一人暮らしの日々。気苦労もあるけど、1年も経てば何とか上手くやっている。
大学生活だって勉強はそこそこ理解しながらついていけているし、友達だって多くはないけど気の合う子たちに巡り会えた。
何の不満もない、つもり。自分に必要な付き合いだけで築き上げてきた世界は、今だってちゃんと保たれたままだ。
……だけどそれって結局は、何も成長していないってことにもなる。
自分の考えを崩れないようにすればするほど、世界の時間が止まってしまう。
最近はそんな風に思えるから、周りの人が生きる世界が眩しいのかもしれない。
恐れることなく自分の世界を広げて確実に大人になっていく同年代の人達が、何だか遠ざかっていくみたいだから……。
「冷めちゃったなあ……」
テーブルに置いていたカフェオレに口をつけると、生温い液体が喉を通った。来店した1時間後に買い直したものだったけど、もうすっかり風味が損なわれていた。
美味しくないそれを飲み干して、ふうっと溜め息を吐く。開いていた文庫本を閉じてテーブルに乱雑に置くと、窓のすぐ前の歩道を人が通っていく姿に目を奪われた。