吐き出す愛


 制服を着て手を繋いでいる男女は、きっとカップルだろう。
 きちんと制服を着ている真面目っぽい女の子と、明るい茶髪の垢抜けた男の子の組み合わせ。

 街中では普通に見かけるはずの学生の姿なのに、やけに目が離せなかった。あまりにもその子たちの姿が、あの頃の私と彼にそっくりだったから。

 記憶に捕らわれた心が、容易く過去に連れ去られていく。意識して遠ざけていた、15歳のあの頃に。

 ……やっぱり、忘れるなんて難しいよなあ。

 頭は自然と、人生で初めてのデートを思い出す。

 あの頃、一番嫌いなタイプだった男の子に、突然付き合わされた放課後のデート。
 初めて繋いだ手も、真面目な顔で言われた“好き”の言葉も。

 振り出しに戻そうとした、あの胸が苦しくなる出来事も――。

 今でも嫌になるくらい、ちゃんと全部を覚えてる。
 忘れられる日を望んできたけど、無理だったね。

 だって、私の心は、15歳のあの頃のままなのだから。


「……」


 ときどき、考えることがある。
 彼は今、どこで何をしているんだろうって。

 彼が居ない年を、もう5回も迎えたというのに……。


 中学校を卒業してからは、一度も会ってはいない。町中で見かけることも見事になくなって、まるでそれがさだめのように顔を合わせることがまったくなくなった。

 優子からは、彼が県内の高校に進学したという話だけは聞いていた。でも、聞いたのはそれだけ。

 あの頃の私はあからさまに彼を避けていたから、優子も必要以上に彼のことを話すのは控えてくれていた。

 優子は高校生になっても彼と幼馴染みとしての繋がりがあったけど、私には当たり前だけど何一つ繋がりなんて存在しない。

 会うこともなければ、姿を見かけることすらない。
 どこで何をしているかなんてことも分からなくなり、私の生活から完全に彼の気配は消えていった。


< 104 / 224 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop