吐き出す愛


「――はい、終わりましたよ! こんな感じで良かったかしら?」


 鏡の中に、ロング姿の私が映る。
 毛先が綺麗に整えられて、全体的に軽くなったような見た目。

 それでも長さは、大して変わっていない。

 その姿にもう一人の私は、残念なような、でもその一方で安堵もしているような、複雑な顔をしていた。

 今回も結局、最後まで言えなかったなあ……。

 例えようのないもやもやした気持ちが胸を締め付ける。
 それを悟られないように、ありがとうございます、と笑みを返してから立ち上がった。

 さらりと揺れる、重たすぎず軽すぎでもないない髪。

 その曖昧な重さで私に纏わり付くそれは、彼を探し続けてきた時の長さを示していて。
 その重みの分だけ、私が一方的に彼に執着していることを表しているみたいだった。

 5年前とは逆転している状況に、自分に、こっそりと嘲笑を浮かべる。

 髪を切れば、そんな自分から解放される。そんな期待さえ抱いていた自分にうんざりした。

 私はどこまで、15歳の自分に縛られているのだろう。


 女性美容師さんは私が着ていたカットクロスを手にしたまま、レジには向かわず店の奥にあった扉に駆け寄る。

 そして扉を開けた先に声をかけた。


「トモヤー! レジと片付け、お願いねー!」

「はーい」


 奥の方から、男の人の声が聞こえてくる。

 どうやら店内に居た2人の美容師さんの他に、まだスタッフさんが居たらしい。


「すみません。お会計の方は別の者に任せますね」


 レジのカウンターの前に突っ立ったまま固まっていると、女性美容師さんはそう声をかけてきた。

 そして慌ただしい様子で、さっきまで隣に座っていた老婦人のもとへ駆け寄っていく。
 男性美容師さんも相変わらずお客さんの髪の毛を巻いていて、手を離せそうにない。

 この様子だとどうやら美容師さんたちは忙しいので、レジ業務は別の人が担当しているみたいだ。


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