吐き出す愛
「あれ? もしかして智也の知り合いだった?」
2人の間に流れたただならぬ空気に気付いたのだろう。
手が空いた男性美容師さんに老婦人を託して、女性美容師さんがレジカウンターに歩み寄ってきた。
有川くんは彼女に向き合ったあと、チラッと私を見ながらもごもごと口を動かした。
「……あっ、えっと……。中学のときの、同級生」
「へえ、そうだったんだ! 奇遇だねー、地元以外で会うなんて。……あっ、紹介が遅れました。あたし、智也の姉の智香子です。ちなみに、あっちに居るのが旦那ね」
私と有川くんが知り合いだと分かると、女性美容師さんこと智香子さんは急にお喋りになった。
さっきまでとは違って馴れ馴れしくなり、そういう人との接し方はどことなく有川くんに似ている気もする。
有川くんは最初から有無を言わさず、馴れ馴れしかったけれど……。
智香子さんの紹介を受けた旦那さんが鏡越しに小さく会釈しているのに気付き、慌てて頭を下げる。
それから智香子さんに向き合い、私も自己紹介をした。
「はっ、はじめまして。高崎佳乃と言います。有川くんとは、中3のときに同じクラスでした」
「佳乃ちゃんね、はじめまして。ぶっちゃけ聞いちゃうけど、もしかして智也の元カノかな?」
カウンター越しの私の正面に突っ立っていた有川くんを押し退けて、智香子さんは私の正面を陣取る。
問いかけてきた智香子さんの表情は、完全に色恋沙汰を楽しんでいるものだった。
「姉貴! 何変なこと聞いてるんだよ! 佳乃ちゃんはただの元クラスメートだって!」
「えー、そうなの? さっき気まずそうに見つめ合ってたから、てっきりそうなのかと。ていうか、佳乃ちゃんに聞いてるのにあんたが答えないでよ!」
「姉貴が余計な詮索するからだろ!」
……気のせいかな。
前にもこれに似たやりとりを、どこかで見たことあるような気がする。