吐き出す愛
有川くんと口論をし始めていた智香子さんはふと我に返った様子で、困惑で固まっていた私を見た。
「……あっ、ごめんねー。変なこと聞いちゃって。智也ってば女の子泣かせるようなことが多いからさ。てっきり佳乃ちゃんも被害者なのかと思って、心配になっちゃったの」
眉を下げて申し訳なさそうに謝られてしまい、何とも言えない気持ちになる。
有川くんは、ばつが悪そうにそっぽを向いていた。
私と有川くんの間では、色々あったと思う。そしてそれは、とても複雑なことだった。
だけどどれも、智香子さんが心配するようなこととはきっと少しだけ違う。
だって私、自分が被害者だなんて思ってない。
あの頃の有川くんの言葉とは異なる行動にショックは受けたし、人を好きになる気持ちは信じられなくなったけど。
それでも、自分だけが傷を負ったとか、そんな風には思っていない。
……だって、未だに目に焼き付いてるの。
私が告白を断り、有川くんのことを信じられないと言ったときの、あの表情が。
傷付いたように、儚げに見えたあの表情が……。
あのとき、有川くんが何を思ってあんな顔になったのか、それは分からない。
でも、これだけはちゃんと自覚がある。
確かにあの瞬間、私が有川くんにあんな顔をさせたんだ……って。
最後のあの瞬間、被害者だったのは有川くんの方だよ。
「……つうか姉貴、そろそろ向こうに戻れよ。俺も会計しなくちゃだし」
「えー、もう少し佳乃ちゃんとお話したい」
「いいから、行けよ!」
カウンター内に居座る智香子さんの背中を、有川くんは苛立った声でそう言いながら押した。
あからさまに不機嫌な表情に、私も智香子さんも言葉を失った。