吐き出す愛
情けない思いを抱えたまま、恐る恐る振り返る。
少し先に見えるヘアサロンの建物。そこから私が立ち尽くしている場所の間には、誰一人居なかった。
……馬鹿だなあ。
この期に及んで、ちょっとだけ期待してるんだもの。
有川くんなら、追いかけてきてくれるかもしれないなんて……。
でもそんなの、実際に有り得るわけがない。
それは有川くんが見せた不機嫌さや私への接し方で、分かりきっているようなものなのだから。
「……っ、」
分かりきっているはずなのに、ヘアサロンに背を向けてもなかなか歩き出すことが出来ない。
胸の奥底で、何かが私の邪魔をする。
情けないけど、馬鹿みたいだけど。
やっぱり私は、どうしようもなく期待している。
15歳の思い出に、そして彼に執着してるんだ。
あの頃のように、強引にでも私の世界に有川くんが踏み込んできてくれたなら、何かが変わるかもしれない。
あの頃に得て失ったもの……有川くんに抱く特別な感情の正体が、分かるかもしれない。
そんな期待があったからこそ、私はずっと、彼を探していたのかもしれない――。
「……佳乃ちゃん!!」
重い気持ちを引きずりながらようやく去ろうとした瞬間、力強い声で呼ばれた。
それに引き付けられた心が反応して、素早く身体を後方に向ける。
有り得るわけないと思っていた光景が、目の前に広がっていた。
焦った様子で駆けてきた有川くんが私のもとに辿り着く。
信じられない思いで茫然とする私に、ふわっと笑いかけた。
「良かった、間に合った」
「どうして、来たの……?」
疑問が真っ先に口から出た。
気持ちとは裏腹に少し素っ気なく言ってしまった言葉に、有川くんは平然と答える。