吐き出す愛






 取り越し苦労って、こういうことなのだろう。

 待ち合わせ場所に現れた有川くんのあの頃と変わらない笑顔を見たら、そう思えた。


「お待たせー。もうランチタイム始まってるみたいだし、さっそく中入ろうっか」

「うん、そうだね」


 有川くんと再会した日から、ちょうど1週間後の日曜日。

 日程を合わせるために何度か連絡を取り合った結果、最近テレビで取り上げられていたパスタ屋さんで食事をすることになった。

 マンションの最寄り駅から2つ先の駅近くだから、わりと近い。

 有川くんとはパスタ屋さんの前で落ち合うことにしていたのだけど、待っている間は正直不安でいっぱいだった。
 誘いがからかい目的だったら、ドタキャンされてもおかしくなかったし……。

 でも今、目の前には有川くんが居る。

 初めてのデートのときのように楽しそうに先陣を切っているから、単純な心はすぐにつられた。



 店に入るとすぐに、食欲を誘う芳ばしい香りに全身が包まれる。
 ランチタイムが始まって間もないとはいえ、店内の客席はほぼ埋まり始めていた。

 そんな中私たちが案内されたのは、壁際の2人掛けの席。
 心なしか木目調のテーブルが小さく思えて、向かい合う有川くんとの距離が近い気がする。

 再会してから、初めてじっくりと近くで見る有川くんの顔。
 雰囲気で大人っぽくなったとは感じていたけど、それは間近で見ても同じ印象だった。

 15歳のときにふと感じていた色気が全面に出たような気がする。笑うと少し、少年っぽさが残っているようにも思えるけど。

 思わずじっと観察していると、メニューを見ていた有川くんが顔を上げた。

 至近距離で目が合い、突然のことにドキッとする。
 切れ長の目が更に細くなり、有川くんが微笑んでいることに気付いた。


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