吐き出す愛
「……そうだね、帰ろう」
今度は私も倣って立ち上がる。
すると、何の躊躇いもなく手のひらを差し出された。
本当なら私は、それに触れちゃいけない。
でも一瞬迷った末に、自分の手のひらを重ねた。
指が絡まって、しっかりと握られる。
こうなるともう、私は有川くんから離れられない。
……ああ、私、今なら分かるかもしれない。
どうして中学生の頃、有川くんが人を引き付けていたのか。
女癖が悪いという噂があった彼なのに、女の子たちが離れようとしなかったのか。
……みんな、きっと信じていたんだ。
有川くんが自分に向けてくる優しさが、一時のものではないって。
安っぽく感じる好意も、いつかは自分だけにくれる深い愛情に変わるかもしれないって。
引き付けて離してくれない彼に、希望を抱いてたんだ。
そしてそれは、……私も同じ。
馬鹿みたいに期待して、意味のないデートに付き合ってしまうほど。
有川くんと一緒に居ることで、何かが変わってくれるかもしれないと期待しているんだ。
……でも、今更何も変わらない。
あの頃だって変わりはしなかったものが、今になって変わるはずがない。
だって私は結局、有川くんの周りに居る遊び相手の女子の一人にすぎないのだから。
そんなこと、分かってる。
分かってるのだけど、苦しいと感じてしまう。
胸の奥底から支配される、息苦しさ。
あの頃からたびたび感じてきたこれの意味も、自分の本心に気付いた今なら分かる。
誰かを“好き”になるとドキドキするだけではなくて、ときには苦しい切なさを抱くってことも。
あの頃の私はとっくに有川くんに引かれていて、彼の周りの女の子たちに嫉妬していたんだってことも……。