吐き出す愛
*
自宅の最寄り駅に戻ってくる頃には、すっかり夕方になっていた。
それでも電車を降りてホームから見た空は、まだ明るいと言えるもの。夏の昼は長いと感じた。
冷房が効いていた車内とは違い、ホームはむっとした空気に包まれている。
生温かいのにどこか心地良く感じた潮風が恋しくなった。
有川くんに手を引かれるままに歩みを進める。
ちょっとだけ斜め前を歩く有川くんの背中を見つめながら歩いた。
……海からここに帰ってくるまで、有川くんは一度も手を離してくれていない。行きの車内では離してくれたのに。
気持ちが異なる2人が繋ぐ手に意味なんてない。それでも有川くんは、あの頃からやたらと手を繋いでくる。
それを受け入れ、心の片隅で嬉しく思ったこともあるけれど。
今はただ……虚しい。
だって、温もりは合わさっても、心は重ならないのだから。
「……」
「……」
……何か、様子がおかしいよね。
いつもならおしゃべりな有川くんが、全然喋らない。海から帰るときから、ずっとその状態が続いている。
不思議に思って電車内で話しかけてみたら、話には応じてくれるけど上の空といった感じで。
ただずっと、私の手を握ったまま、有川くんは何かを考えるような表情をしていた。
急に、どうしたのか分からない。
思い返せば、海であの質問をしてきたときから様子が変だったと言えるのかもしれない。
だけどどれだけ考えてみても、私に有川くんの本心など分かるわけがなくて。
理由を聞いて確かめる勇気さえ、持ち合わせていない。
そんな私はただ、このデートの終わりを寂しく感じながらも受け入れるしかなかった。
……もう、お別れだなあ。
西口と東口を案内する看板がそれぞれ見えてきて、デートの終わりをひしひしと感じる。
今度こそ本当に、今後有川くんとは会うことはないだろうな。
だって有川くんには、彼女が居るのだから。