吐き出す愛






 駅の西口から住宅街方面へ少し歩いたところに、小さな公園がある。

 そこは近所の子供たちの遊び場として昼間は賑わっているけど、夕方以降はほとんど人が中に入ることはない。

 そのことを知っていたから、そこで有川くんの怪我を手当てすることにした。

 人目がない方が落ち着ける気がしたから。


「はい、ハンカチ濡らしてきたからこれで冷やして」

「……ん、ありがとな」


 水道で冷水に浸してきたハンカチを、ベンチに座って待たせていた有川くんに差し出す。
 有川くんは微かに笑ってそれを受け取ると、そっと頬に当てた。


「腫れてるけど、まだ痛い?」

「いや、だいぶマシになったよ」

「……そっか、良かった」


 辺りが薄暗くなってきていて見えにくかったけど、有川くんが見せてくれた頬は、確かに少しだけ腫れが引いているようにも見えた。

 公園に着いた直後は真っ赤に染まっていた頬の色も、今は夕焼けの空の色が映っている感じだ。

 とりあえず一安心して有川くんの隣に腰掛ける。
 だけど有川くんの横顔に貼りついている絆創膏を見て、まだ少し不安な気持ちが残った。


「……やっぱり、消毒した方が良くない?」


 バッグに非常用として持ち歩いていた絆創膏と消毒液があったから、それで手当てをしようと思っていたのだけど。

 消毒までしなくていいと言われて、結局、傷口を清潔にしてから絆創膏を貼るだけになったんだ。


「いいっていいって。絆創膏貼るのも大袈裟なぐらいだしさ」

「でも……」

「大丈夫だよ、また治り具合見てから自分で消毒するから。……佳乃ちゃん、心配してくれてありがとな」


 いつまでも心配している私に、有川くんは優しい声をかけてくる。

 駅で女の人に向けていた顔からは想像も出来ない、驚くほど穏やかな笑みを向けられた。

 そんな顔で言い切られてしまえば、もう何も口出しすることは出来ない。

 だから絆創膏が貼られている頬を見たあと、どういたしまして、とだけ小さく呟いた。


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