吐き出す愛
「……」
「……」
有川くんがハンカチで冷やしている間、私たちの間に言葉はなかった。
公園の敷地を取り囲むように並んでいる木々から蝉の合唱が響いてきて、それだけがこの場の空気を保ってくれている。
右隣に座っている有川くんを盗み見ると、濃紺に染まった遠くの空を見つめていた。
……どうしてだろう。
私にはその横顔が、虚しさに支配されているように見えて。
有川くんが、とても小さく弱っているように思えた。
だから、かな。
聞かずにはいられなかった。
心の何処かで、気になっていたことを。
「……有川くんは、どうして好きでもない人と付き合ったりするの?」
「……」
特に驚く様子もなく、私の言葉につられるようにこっちを見た。
私を見つめる、薄茶色の瞳。
そこには、寂しい色が宿っているみたい。
「中学生のときから、そうだったよね。ずっと軽い付き合いばかり繰り返してたこと、知ってるよ。きっと、今でもそうなんでしょう?」
さっきの駅での有川くんの言葉を聞いていれば、有川くんの恋愛関係があの頃とさほど変わっていないのは想像がつく。
……でも、ちゃんと確かめたかった。
有川くんが今、どんな思いでいるのか。
だって有川くん、駅では結構突き放すことを言っていたけど、何だか最後は寂しそうな顔もしていたから。
それなのに、どうしてそんな付き合いをするのか、知りたいと思った。
じっと見つめて返事を待っていると、ゆっくりと視線を逸らされた。
そして頬に当てていたハンカチを膝の上に下ろすと、きつく握り締めて自嘲の笑みを漏らす。