吐き出す愛
「……だけど、いつも期待してた。いつか、誰かを本気で好きになれたらなって。それでその好きになった子も、俺のことを本気で好きになってくれたらいいなって、そう思ってた」
有川くんが一呼吸置くのと同時に、うるさいほどだった蝉の鳴き声がぴたりと停止する。
そして訪れた静寂の中で、有川くんの声だけが鮮明に耳に届いた。
「――俺、佳乃ちゃんだけは本気で好きだったよ」
ドクン……と。
胸の奥で何かがざわついた。
目の前の有川くんに、15歳の影が重なる。
信じることが出来なかった私に、何度も“本気”だと訴えてきた姿が。
今、あの頃と同じ真っ直ぐな瞳で、私を見ている。
「佳乃ちゃんには信じてもらえなかったけど、伝えた気持ちは本当だった。佳乃ちゃんが俺のこと好きならいいのにって何度も思ったし、佳乃ちゃんならこんな俺のことも信じてくれるって思ってたんだ。佳乃ちゃんに抱いた“好き”だけは本心だよ。それだけは……誓える」
「……っ、」
自信に満ちた声で伝えられて、私の心はそれをどう受け止めたらいいのか迷っていた。
あの頃からぽっかり空いたままの心の隙間。
空白のそこに、失っていたパーツが徐々に戻り始める。気付いた自分の気持ちと一緒に、埋め尽くされていく。
おかげで許容量を超えてしまい、ぎゅうぎゅうになった胸が苦しい。
悲鳴を上げているそこからは、今にも何かが飛び出しそうだ。
有川くんの気持ちに答えたいと思う自分が居るのは、確かだった。
……だけど、本当に信じていいの?
どれだけ本気だと言われても、あの頃に見た有川くんと女の子のキスシーンが頭に浮かんできて。
私の本心を、足止めする。
それは、あの頃から、ずっとのことなのかもしれない。