吐き出す愛
有川くんは呆けた表情でしばらく硬直したあと、か弱い声で尋ねてきた。
「えっ、でも……。さっき海で聞いたときは、違うって……」
私を見つめる瞳が戸惑いで揺れる。
……こんな突然の告白、疑うに決まってるよね。
確かに海で一度、今とは反対のことを話していたのだから。
「ごめんね、あれは嘘なの」
「嘘……」
「以前、さっきの女の人と歩いてるのを見かけてね。彼女だと思い込んでたの。だから、私の気持ちは言わない方がいいって思った。有川くんが私のこと好きじゃないなら、言っても無駄だと思って……」
思い返せば中学生のときも、今と同じだったのかもしれない。
有川くんが私に本気じゃないって思ったから、好きじゃないって思ったから。
そんな状態で自分の気持ちを認めるのが怖かったんだね。
……すでに、好きだった。
だから信じて裏切られるのが怖かった。
そんな、傷付くことを恐れる臆病者。
そう思うと、つい苦笑が浮かんできた。
でも……今は。
自分で引いた境界線を、自分の足で飛び越えてみるよ。
有川くんが入り込んで来るのを待つだけの私から脱して、進むんだ。
未熟な15歳の心で止まったままではなくて、ちゃんと20歳の心で向き合うよ。
「散々有川くんの気持ちを信じてこなかったから、こんなこと言うのは厚かましいだろうけど……。好きっていうのが、今の私の本心なの。だから……っ!」
――信じてほしい。
そんな私のわがままな願いは、有川くんの薄いのに力強い胸板に埋もれる。
言葉の途中、気が付いたら腕を引かれて、有川くんの腕の中に閉じ込められていた。