吐き出す愛
「今から、俺のとっておきの場所に来て。佳乃ちゃんが来るまで、そこで待ってるから」
「とっておきの、場所……?」
「そう。じゃあ、待ってるから」
「えっ? あ、有川くん!?」
プツッ、と。
耳元で電話が一方的に切られた音がした。
何と有川くんは私に返事を言わせる間もくれずに、自分の頼みだけ言って会話を終わらせてしまった。
何なのよ、一体……。
いくら私に出来る頼みだとしても、これは勝手だし酷い。
電話で緊張していた私が馬鹿みたいじゃない!
不満で唇を尖らせながら、画面が真っ暗になったスマホを見つめる。
鏡のようになったそこには私の顔が映っているけど、この不服の表情が彼に伝わらないのが憎らしい。
ちょっとは私の姿を想像してくれたらいいのに……って期待している自分は、もっと憎たらしいけど。
「……ていうか、とっておきの場所って……」
会話で来るように指示された、曖昧な場所の名前。
思い当たる場所は1つだけ。
だけどそれはこの地元にある場所で、今まさに帰省している私ならともかく、あの街に居る有川くんがすぐに来れるはずがない。
待ってるから、というのも何だか変だ。
でも、私に今から来るように頼んだってことは……。
「……ま、まさか」
1つの予測で脳内が埋め尽くされた。
私が今日から帰省していることは有川くんも知っている。
……となると、彼なら行動してもおかしくないかも。
「何がしたいのよ、もう……」
目的地に本当に有川くんが居るなら、私が行かないわけにはいかない。
ぶつぶつ文句を言いながらも出掛ける準備をする。
何だかんだ思いながらも、結局は有川くんの強引な頼みを聞き入れるなんて……。
私は本当に、どこまで馬鹿なお人好しなのだろう。