吐き出す愛
「忘れるわけないよ、絶対に」
だってここは初めてのデートの場所で、有川くんが告白してくれた場所でもあるから。
そんな特別な場所を、忘れるはずがない。
私にとってもとっておきの場所になってるなんてこと……有川くんには、教えてあげないけどね。
「そういえば有川くん、どうしてここに居るの?」
有川くんの帰省予定日は3日後だったはずだ。
それなのに今、私と同じようにこの町に居る。
しかも、私を呼び出す形でこの場所に。
「ああ、実はバイトの休みが増えてさ。おまけに姉貴からも店の手伝いはしばらくいいって言われて、だから早めに帰省したんだよ」
「そうだったんだ……」
有川くんはお姉さん夫婦が経営しているヘアサロンのお手伝いとは別に、居酒屋でのバイトもしている。
それゆえに忙しくて会えなかったのに、何て都合のいい展開なのだろう。
……まあ、会えて嬉しいけど。
「せっかく同じ時期に帰省するならさ、佳乃ちゃんとこの場所に来たいって思ってたんだ。だから俺、ここで久しぶりに佳乃ちゃんに会えてすげー嬉しい!」
いつの間にかすんなりと私の右手に自分の指を絡ませて、有川くんは無邪気に笑った。
夕闇の下で灯り始めた町並みの光によって、ほんのりと2人の姿は照らされている。
「私も……、有川くんに会えて嬉しいよ!」
手のひらの温もりをしっかりと握ると、素直な言葉が出た。
私が笑えば、有川くんも笑ってくれていた。
その有川くんの視線が、ふと私の顔を捕らえて止まる。
風向きが変わって吹いてきた風が、首を隠している髪の毛の先を揺らした。
「……さっきから気になってたけど、髪の毛切ったんだな」
先日切ったばかりの髪の毛を有川くんが撫でる。
いきなり触れてくるものだから、胸が容赦なしに暴れだした。