吐き出す愛


「う、うん、そうなの。切ったって、よく気付いたね」

「そりゃあ、これだけ短くなってたらすぐ気付くって」

「あはは、そうだよね」


 さすがに、誰が見ても気付くだろう。

 背中の真ん中まであった髪の毛が、顔の下までの長さに変わっていたら。


「姉貴の店に行ったの?」

「そうだよ。有川くん居るかなって思って行ったけど、ちょうど居ない日だった」

「そっか。姉貴、何も言ってくれなかったなあ。つうか、何で急にばっさり切ったの?」


 有川くんの指が短くなった髪の間を滑った。
 軽くなった髪に触れる手が、時折地肌に当たってくすぐったい。


「……イメチェン、かな」


 気持ちの切り替えのつもりで切ったけど、ざっくり説明するならこの表現がよく似合う。

 今の私は、外面も内面もイメージチェンジした状態だから。


 もともと切りたいと思っていたのに、なかなか切ることが出来ずに伸ばしたままだった髪の毛。
 それを唐突に切る決意をしたのは、私が15歳の自分から解放されたから。

 ずっと過去の有川くんの言葉や思い出に縛られていたけど、今はそれを受け止めた上で前進している。

 その軽やかな気持ちに合わせてショートカットにした髪の毛は、軽すぎてまだ不慣れだ。

 でも、すごく清々しい。
 5年かけて溜まっていったうじうじしたものがなくなるって、何だか凄いことなんだ。


「イメチェン、ね……。そう言っても、かなり短くしたよな。肩辺りにしておけば良かったのに」

「それじゃあダメだよ。イメチェンだからこそ、思いきらなくちゃ」


 私はそのつもりでこの髪型をヘアサロンで頼んだのだけど、智香子さんは要望を聞いて心底驚いていた。

 肩辺りの方が良いんじゃない? と、有川くんと同じことをやんわり勧めてきたほどだ。


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