吐き出す愛
だけど私は、どうしてもショートの方が良かった。
未熟な気持ちのロングヘアーでも、15歳のあの頃と同じミディアムヘアーでもなくて。
これから有川くんの隣を歩いていく自分のために、踏ん切りがつく髪型にしたかったの。
でも、理由も言わずに頑なにショートにしてほしいと頼んでいたら、智香子さんにはとんだ勘違いをされてしまった。
そのことを思い出したら苦笑いが溢れる。
「そうそう。あまりにもショートにするものだから、智香子さん勘違いしてたよ。……失恋したの? って聞いてきた」
「げっ、マジかよ。何その不吉な質問……」
「だからね、その逆ですって言ったの。勘違いが可笑しくて、ついつい有川くんと付き合ってることも話しちゃった。言っても良かったかな?」
「もちろん良いよ。佳乃ちゃんが次に店に来たら、彼女ってこと紹介するつもりだったし。……まあ、その肝心なときに不在で勘違いされたみたいだけど」
ははっ、と乾いた笑い声を落としながら、有川くんはまた私の髪をじっくりと触る。
美容師の卵だから職業的に人の髪に触れるのが好きなのかもしれないけど、あまりにも執拗だから不思議に思った。
首を傾げて有川くんを見れば、その視線に気付いてぽつりと言う。
「……これはこれで似合ってるけどさ、やっぱもったいねえよな。せっかく長いの似合ってたのに」
眉を下げて少し不服そうに言った内容を聞いて、なるほどと思った。
やっと有川くんが私の髪に夢中な理由が分かる。
有川くんってば、やたらと私のロングヘアーを褒めてくれるほど、長い方が好みみたいだもんね。
子供のようにいじけた様子で髪の毛にこだわっている有川くんを見ていたら、つい意地悪をしたくなった。