吐き出す愛


 そいつの一言に、他のやつらもはたと気付いたように顔を見合わせた。

 やっと気付いたか、俺の彼女が誰なのか。


「そういえば智也って、卒業間近に高崎さんのこと好きだって言ってたよな……」

「そうそう。今まで付き合ってた女子とはタイプが正反対だからどういう風の吹き回しだって、俺らは不思議に思ってたんだよな」

「しかも今までと違って本気とか言って、高崎さんにやたらアプローチしてたっけ。高崎さんには拒否られてる感じだったけど、諦めずに何度も」

「だけど、結局フラれたんじゃなかったっけ? そのあとすげー落ち込んでたから今回は本当に本気だったのかって一瞬思ったけど、結局また遊び始めたから違うのかって感じだったと思うんだけど……」


 あの頃の記憶を手繰り寄せながら状況整理し考えている顔は、みんな「どういうことだ?」という疑問で統一されている。

 皆揃って混乱している姿が少し滑稽だと思う一方、俺は本当にあの頃から今までややこしい恋愛をしていたんだなと当時を振り返って苦笑した。


 あの頃、俺は仲間には彼女を好きだということを話していた。

 軽い気持ちなんかじゃないと思っていたからこそ、卒業前最後の席替えで隣になったのを機に接近し始めたときに、周りのやつらには公言していたんだ。
 いつもみたいにからかうなよって、牽制する意味も兼ねて。

 ……まあ、結局それは裏目に出て、どんどん他のやつらにまで俺の好きな人の噂は広がったんだけどな。
 おかげで、注目の的になるのを嫌がっていた彼女に不快な思いをさせてしまったし。

 あの頃の彼女とのことを思い出すと、楽しかった思い出とともに目を瞑りたくなるような苦い失敗の数々まで引っ張り出されてしまう。

 そんなあの頃があってこその今だけど、やっぱり思い出すのは俺もつらいから、無理矢理意識の外へ追い出した。

 そうだ。今は見つけた彼女のもとへ行くことが最優先だ。


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