吐き出す愛
未だ俺に絡み付くみんなの手から抜け出し、にっと笑って言ってみせた。
「あとで紹介してやるよ。でも彼女、俺らみたいな派手なノリは苦手みたいだから、出来るだけ静かに受け入れてやってくれよな」
じゃあ、またあとで、と言い残して輪を抜ける。
すると間もなく背後から、「マジで高崎さんが彼女かよ……!」と驚いてわあわあ騒ぎ出すあいつらの声が聞こえてきた。俺が向かう先に居る彼女の姿を見て、疑問が一瞬で解けたのだろう。
――そう。
高崎さんもとい佳乃ちゃんこそが、あの頃から俺が片思いし、今付き合っている大切な恋人だ。
「佳乃ちゃん!」
彼女の名前を呼ぶとき、いつも自分の声が弾んでいるのを感じる。それはあの頃から変わらず、まるで彼女への思いを表すように、特別な響きを持たせているようだ。
自分でそう思う声は、佳乃ちゃんの耳にはどう届いているのだろう。出来れば、俺が思う通りに聞こえていたらいいのに。
赤と白の布地に、金色の刺繍で縁取られている花柄が散らばっている振り袖を着て、いつもに増して可愛く、そして少し大人びた雰囲気を醸し出している佳乃ちゃんが、俺の声に反応したようにこっちを見る。
近寄るとふっとこぼすような笑みで迎え入れてくれた。そして綺麗な桜色の唇が、俺の名前を紡ぐ。
「あり……じゃなかった、と、智也くん」
佳乃ちゃんが俺のことを“有川くん”ではなく“智也くん”と呼ぶようになってくれたのは、まだ最近のこと。
付き合う前と変わらない呼び方に変化をつけたくて、俺が頼んだんだ。
佳乃ちゃんの声で呼ばれる名字にも愛着はあったけど、俺たちの関係はあの頃よりも近付いたものに変わっているのだから、やっぱり名前で呼んでほしくて。