吐き出す愛
「そう、なら良かった。付き合い始めてからの二人の姿をまだ見れてなかったからちょっと心配してたけど、杞憂だったみたいだね」
「当たり前だろ。俺は佳乃ちゃんに一途なんだから」
そう言いながら柔く佳乃ちゃんの肩を引き寄せて、幸せだと言わんばかりに笑顔を浮かべた。
優子に、そしてこっちを見ているだろうあの仲間たちにも見せつけるように。
視線を下げて隣の佳乃ちゃんを見れば、照れたようにきゅっと唇を閉じながらも俺に笑いかけてくれた。
それだけで、彼女の気持ちが俺と同じだと疑うことなく信じられる。
目の前の幼馴染みはやれやれといった感じだけど、それでもあの頃からの俺たちの事情を知っているだけに、最後には祝福してくれるように笑ってくれていた。
式が始まるまであと15分程度。
しばらく三人で喋ったりしていたけど、今は佳乃ちゃんと再び二人きりになり、出身中学ごとに振り分けられている座席の隅の方に並んで座っていた。
途中で高校の友達に声をかけられた優子は、どこかへ行ったきりまだ戻ってきていない。
列の端で周りにはまだ人が座っていないのをいいことに、俺は佳乃ちゃんと手を繋いだまま座っていた。
振り払われる様子はないから、佳乃ちゃんも手を繋いでいることに反対ではないらしい。
「何だか、すごいよね」
舞台上に吊るされているスクリーンの真っ白な画面を見ながら、ぽつりと佳乃ちゃんが言った。
「あの頃は有川くんと付き合ってる自分の姿なんて全然想像出来なかったのに、今は智也くんと一緒に居る自分が当たり前みたいにすごくしっくりきてる。あの頃の自分からしたら、すごい変化だよね」
隣の横顔を見ると、彼女の瞳はじっとスクリーンを見据えたまま。まるでそこに、自分の記憶を映して観ているようだった。
俺も倣って、空調の風で微かに波立つ白い画面を見た。目の奥に浮かぶ光景は、まだまだ幼かった俺たちのあの頃。