吐き出す愛
嫌悪感丸出しの顔で俺を見る佳乃ちゃんを思い出して、くすりと笑みが漏れる。
「佳乃ちゃん最初、俺のこと嫌いだったもんな。それ思うと、今付き合えてるのなんてすごい奇跡的な変化だよなあ」
「ふふ、そうだよね。あの頃は、すごく嫌いだって思ってた。今ではどうしてあんなに嫌ってたのか分からなくなってきたけど……」
そう言いながら遠ざかる記憶を辿るようにすっと目を細めると、繋いでいる手に力を込めてきた。
「そう感じるのも、今があるのも、きっと私たちが変わったからだね。智也くんが嫌いと思うような人から変わったから、私がそんな智也くんを信じるように変わったから……だから今、こうやって一緒に居られるんだろうね」
「そうだな。自分でも気付かないうちに、あの頃より随分変わってきたんだろうな」
今日久しぶりに会った友達にも言われたように、佳乃ちゃんの目に映る俺も確かに変わっているのだろう。そして、彼女自身の胸の内も。
「……あの頃から5年、かあ。また5年経つ内に、色々変わっちゃうのかな」
まだ見えない未来にぼんやりと思いを馳せながら呟く佳乃ちゃんの声は、マイナスな方を考えているのか若干沈んで聞こえた。
予言者じゃないから、もちろん俺にも先のことは明日のことですら分からない。
今が幸せということしか、確信はない。もしものパターンを考えれば不安にもなる。
でも、どうせ考えるのなら……。
「今よりもっと、幸せになってるかもな」
いい未来を、夢見ていたい。
「俺も佳乃も働いてるだろうから、もしかすると今より会える時間とかも減ってるかもしれねえけどさ。佳乃を好きな気持ちは変わらない……いや、今よりもっと好きになってるかもな」
あの頃から今日まで。今日からまた5年。
日々過ぎていく時間の中で、また新たに変わることもあるだろう。