吐き出す愛
*
「佳乃ちゃんってさー、男の子と付き合ったことないでしょ?」
彼――有川智也が初めて私に投げかけたのは、そんな言葉だった。
中学校生活最後の席替えで初めて隣の席になった直後の第一声がそれだったから、何この人って思った。
だって、中3で初めて同じクラスになってからまともに話したこともなかった男の子に、まさかそんなことを言われるなんて思ってなかったから。
若干呆れつつも、あしらうように早口で答えた。
「……そうですけど。それが、どうかしたんですか?」
たぶん、即答したことに驚いているのだろう。
有川くんは少しだけ目を丸くして、それからへらっと作り笑いを浮かべた。
……ああ、やっぱりこの人は嫌いなタイプだ。直感がそう告げる。
「やっぱそうかー! 佳乃ちゃんってめっちゃうぶな感じしたし、そうだと思った」
私の気分が下がっていくことを知らない彼は、何故か嬉しそうにというか得意気に笑う。
……っていうか、付き合った経験のありなしとか、うぶだとか。見て分かるものなの……?
一瞬不思議に思うけど、有川くんなら有り得ると思った。
色んな女の子と付き合った経験があるらしい有川くんなら、女の子の事情に詳しくもなっていそうだし。
きっと、反応とかで男慣れしてないのが分かっちゃうんだろうな。何だか、扱うのも上手そう。
「あっ、じゃあさ、好きな人はいんの?」
話題はさっきの返答で終わったと思っていたけど、有川くんの口は塞がらない。おまけにかけられた言葉は再び質問だった。