吐き出す愛


 好奇心旺盛な視線が真っ直ぐ向けられる。

 それに対抗するべくあからさまに顔をしかめて有川くんを見るけど、彼はその程度で動じたりしなかった。
 むしろ「教えてよー」とさらに催促をしてきた。

 ……意味、分かんない。

 わざわざご丁寧に答える必要なんてないって思うけど、答えないと今以上にしつこくなりそうなので早々に諦めた。


「いませんよ。今まで一度も好きな人なんていません」

「えー、恋したことないとかもったいねえの。佳乃ちゃん、それ人生損してるよ?」


 机に頬杖をつきながら、至極真面目な顔で言われてしまった。

 どうして私、今日初めてちゃんと口を利く人にこんなこと言われてるんだろう……。

 そう考え出したら頭が痛くなってきた。
 最初から質問に答えた自分が馬鹿らしく思えてくる。


「……私が損してるかどうかは、有川くんには関係ないです」


 椅子を後ろに引いて腰を上げる。

 とにかく話を終わらせたかった。その一心で教室を後にする。

 どうせ隣の席なんだから彼から逃げられるわけないけど、一時でも離れられるならまだましだ。


「佳乃ちゃん、待ってよー」


 だけど人が行き交う廊下に出た瞬間、さっきまで聞いていた声がまた私の名前を呼んだ。

 結構しつこい!


「ねえ、佳乃ちゃん」

「……」

「佳乃ちゃんってばー!」


 足の動きを早めて一刻も早く立ち去ろうとするけど、後ろから飛んでくる声はしつこいぐらいに追いかけてくる。

 仕舞いには駆け足になった有川くんに追い越されて、見事に進路を塞がれてしまった。


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