吐き出す愛
「なあ、無視すんなって」
さっきまでは一応下手に出たような態度だったけど、今はちょっと語気を強めた声だった。
廊下の窓から差し込む日差しで、有川くんの髪色が薄茶色になっている。
坊主からそのまま伸ばしたような短い髪は光っているせいか、いつもより明るく見えた。
たびたび先生に注意されてる髪色は、確か地毛ではなく染めているらしい。
「……別に、無視してないです」
彼から目を逸らし、呟くようにそう言い捨てて一歩横に動く。
そのまま有川くんの横を通り過ぎようと思ったけど、半歩動いただけで行く手を阻まれてしまった。
目線を上げると、私の顔に視線が注がれていた。何を考えているのか、よく分からない表情で。
「……」
「佳乃ちゃんさ、その敬語やめろよ。同級生で、しかも隣の席になったのに、なんかよそよそしいじゃん」
「有川くんは逆に、馴れ馴れしいですよね。佳乃ちゃんって呼び方、嫌なんですけど」
「何で? 佳乃ちゃんは佳乃ちゃんだし、別に良いじゃん。俺、女子はみんなちゃん付けで呼んでるしさ。それに仲良くなりたいって思ってるのに、タメ語じゃないと親近感湧かねえじゃん」
そうだろ? って。
首を傾げて言いくるめるような口調だった。
仲良くなりたい、だなんて。本当に思ってるのかな。
女子なら全員にそう言ってそうだから、最もらしく言われてもいまいち説得力がない。
そもそも、彼が私みたいな自分とはタイプの違う女子と仲良くなりたいっていうのが信じられなかった。
第一私は有川くんと仲良くなりたいなんて、ちっとも思っていない。だから彼の言動は勝手だし迷惑だ。