吐き出す愛
有川くんから離れるとやけに頭が冷静になって、ついつい色々と考え込んでしまう。
自分で誘ったくせに無駄に気疲れしていて、溜め息を溢さずにはいられなかった。
「佳乃ちゃーん、こっちこっち!」
図書室に隣接した学習スペースという名の、自習のために生徒が利用出来る部屋。
その部屋の真ん中の一番目立つ場所から、にこやかに手招きをされた。自然と口の端が痙攣を起こす。
だって有川くんの大きな声に反応して、部屋に居た人達が一斉に視線を向けてきたんだ。
ただでさえ注目の的になりやすい有川くんと一緒に居ると、私まで目立ってしまうのに……。
あんな大きな声で呼ばれたら、格好の的以外の何物でもない。
しかも周りがみんな黒い頭のせいで、茶色い頭の有川くんはすでに一際目立って見えた。
おまけにこの時期は受験を控えた3年生で、この部屋の利用者は増えている。より多くの人、しかもほとんどが同学年の人の中で目立ってしまうなんて最悪だ。
……やっぱり、誘った私がどうかしてたのかもしれない。
今更姿を隠すことなんて出来ないのは分かってる。
それでも最後の抵抗で、俯いて顔を隠しながらこそこそと有川くんのもとへ行った。
「はい、どーぞ」
「……ありがとう」
我が物顔で彼は、自分の左隣の椅子を引いた。
……そっか。勉強を教えるから、隣に座った方が良いもんね。
そう自分に納得するように言い聞かせて、引いてもらった椅子に腰かける。
すると思いの外有川くんとの距離が縮まって、戸惑う鼓動を誤魔化すように早口で喋った。