吐き出す愛
「あ、あの、何から勉強する? 有川くんの苦手な科目から始めた方が良いかな?」
「ふはっ、何でテンパってるの」
「べっ、別に、テンパってなんか……!」
「十分テンパってるって。どうせあれだろ? 近いから緊張してんだろ、あのときみたいに」
ぐっと顔を近付けてきて、有川くんは意地悪く笑う。
完全に見透かされていたことも相まって、頬がかっと熱くなった。
“あのとき”というのは、きっとデートの日にプリクラを撮ったときのこと。
あのときも有川くんとの距離感に緊張していたら、からかわれたっけ……。
瞬きを忙しなくするだけで身体が完全に固まっていると、ふっと2人の間に隙間が出来た。
有川くんは、してやったりの顔で笑っていた。
「ほんっとうぶだよなあ。顔真っ赤にして可愛いー」
「はっ、恥ずかしいからそういうこと言わないでよ!」
からかう有川くんの声もむきになる私の声も、ボリュームを落としてはいるけど、きっと周りの人にも聞こえているはず。
そう意識すると、余計に恥ずかしい気持ちに支配される。
誤魔化すためにきつく唇を閉じて有川くんを睨むけど、ほとんど効果を為さなかった。
現に、柔らかく綻んだ笑みを向けられる。
おまけに“はいはい、もう言いません”と軽く受け流されてしまい、くしゃっと頭を撫でられた。
大きな手の下から隠れ見た表情は、とても優しくて。
だから……ついつい、探りを入れてしまう。
その優しさは、本心なのかなって。
有川くんに“信じて”と言われていることもあり、最近は探りを入れる癖がついていた。
行動、言葉、表情。
そのどこに有川くんの本心が隠れていて、どんな彼なら信じても大丈夫なのか。
有川くんが私に好意があるような反応をするたびに、あの日の“好き”の言葉の真意を確かめずにはいられなかった。