吐き出す愛
「佳乃ちゃんもさ、俺のこと智也って呼び捨てていーよ。有川くんなんて呼び方、なんか堅苦しいしさ。それでいいだろ?」
私の意見なんて勝手に無視して、話はどんどん進んでいく。
自由気ままな有川くんにはもう、反抗する気力も持てなかった。
聞こえないような小さな溜め息を吐く。
「……もう、好きにしてください」
トイレにでも行こうと思ったけど、そんなのもうどうでもよくなった。
諦めと呆れの気持ちを抱えてくるりと進行方向を変える。
「あっ、待って!」
でも振り返って歩き出そうとしたら腕を掴まれて、容易く動きを止められてしまった。
ブレザーを通じて伝わる力が想像以上に強くて、思わず顔をしかめてしまう。
「……あっ、わりぃ」
一瞬の表情を見逃さなかったらしく、有川くんは慌てたように手の力を弱めた。
でも緩く腕を掴んだままで、解放はしてくれない。
真っ直ぐな瞳が私を見ていた。
心を見透かしてきそうなそれに、何故か胸の内がざわめき出す。
「……あのさ、俺、」
「――あれれ~! 智也がこんなところでナンパしてんぞー!」
微妙な沈黙を挟んで紡がれた有川くんの言葉は、どこかから飛んできた軽快に茶化す声に重ねられるようにして掻き消された。
振り向くと、背が高くてがっちりとした体格の男の子が3人ほど歩いてきた。
ほとんど脱げかけているスラックスやボタンが閉まっていなくてはだけているカッターシャツの襟元は、見事なほどにだらしない。
有川くんも制服を着崩しているほうだけど、程よく開いた襟元や緩めたネクタイは、彼らに比べたらまだ品があると思えた。