吐き出す愛
「……へえ? そのわりには智也、さっきからその子の腕掴んだままじゃん。その子も振り払わないみたいだし、智也と遊ぶこと期待してんじゃないの?」
男の子にそう言われた瞬間、私の中で何かが弾けた。
見えない私の中心部に掠り傷が出来て、中途半端な痛みに身体が疼く。
完全に頭に血が上ったときには、自分でも信じられない勢いで有川くんの手を振り払っていた。
男の子たちのせせら笑う顔と有川くんの驚いた顔。一遍に視界に入ってきて思考がぐらつく。
「馬鹿にしないで……!」
感情は胸の中でぐるぐると闇雲に駆け回っているのに、出てきたのはたったこの一言だけだった。
おまけに声は情けないほど震えていた。負け犬の遠吠えみたい。
しかも男の子と有川くんのどちらに向けた言葉なのかもよく分からない。分からないということは、2人に向けていたからなのかもしれないけど……。
私はその場に居るのが息苦しくなって、ぽかーんと拍子抜けている有川くんと男の子たちの横を早足で通り過ぎた。
「……おっ、おい!! 待てよ!!」
「あ~あ、怒らせちゃったー」
「智也、フラれてんじゃーん」
「ギャハハ! だっせー!」
慌てた様子の有川くんの制止の声に続いて、男の子たちの笑い声が廊下に響く。
足音で有川くんが追いかけてくるのは分かったけど、下品な笑い声の方がずっと付きまとってくるみたいで嫌だ。
男の子たちの視界から消えるように廊下の角を曲がる。
そこで耳を塞ごうとしたけど、追い付いてきた有川くんに再び腕を掴まれてそれは叶わなかった。
「佳乃ちゃん! 逃げるなって!!」
「……っ、いやっ!!」
掴まれた腕を力強く振り切って有川くんを見た。
困惑したように表情が固まっている。そんな顔を、どうして有川くんがするの。