「涙流れる時に」
3 依頼
「ここに来て。」女は新宿のサウナを指定してきた。
るみ子は意を決していた。でも、こんなところ・・・。
昼間のサウナは閑散としていて、若い女性はほとんどいない。
奥へどんどん進むと
女はバスタオル1枚だけで煙草をふかしていた。
「改めまして。百合です。」
るみ子はバスタオル姿の百合が気になって目のやり場に困ってしまう。
「入らない?」百合は半ば強引に、るみ子をサウナに誘った。
「えぇ・・・まぁ・・・」るみ子は断りきれず
着ていた服も次々と脱ぎ捨て、バスタオルを巻いた。
灼熱のサウナの中、るみ子と百合だけ。
るみ子は久々のサウナに息苦しさを感じた。
「・・・で、どうする?」
沈黙だった・・・今日で2回目なのに、こんな話・・・しかし、るみ子の意志は固かった。
「お願いします。」るみ子は吹き出す汗と一緒に力強く百合に言い放った。
「いいの?ホントに?」百合は、るみ子をじっと見つめながら、そう試す。
「・・・ハイ。」この瞬間にも汗は尋常なく流れた。
「それで、あんたは幸せになれんの?」百合は更に、るみ子の本心に迫っていく。
この女の目力は凄い・・・るみ子はこの目に完全にロックオンされてしまって、もう逃げられない。
暑さで意識が更に朦朧となる中、それでも牧村の顔を脳裏に描く。
「一緒になりたい」・・・るみ子は願った。
「そいつ・・・奥さんと別れても
あんたと一緒になるって保証は私にはできないかもよ
どうする・・・?」
「なんでそんなこと言うの・・・」
るみ子は一瞬困惑するも・・・今、牧村を手に入れたい感情から逃れられず苦しんでいた。
「百合さんにお願いします・・・」るみ子の気持ちは変わらなかった。
「・・・ふっ・・・」百合はそんな声を漏らし笑みを浮かべる。
「もう・・・ダメぇ・・・」るみ子はこの暑さに耐えきれずサウナから飛び出した・・・。
更衣室の片隅でそれを手渡した。昨日、口座から引き出した。「こんなに・・・」るみ子は正直、産まれて初めてだった。
「現金で50万」封筒はそこそこ厚みがあった。
るみ子は百合にその封筒を手渡して熱いまなざしを送る。
「奥さんから2人で略奪だわ・・・」百合はそういうと汗だくの体のままシャワー室へ歩き出した。
るみ子は一瞬、緊張から解放されたのか、その場にしゃがみこみ、深い呼吸を繰り返した。
「これでいいんだ。私」るみ子はそう信じるしかなく呼吸の中でそれを確認した。
シャワーを浴びて戻ってきた百合。
バスタオルを取るとその姿は本当に美しくしなやかな曲線
長い黒髪をかき分け、洗面台で化粧し始めた。
「つくづく・・綺麗な人ね・・・」るみ子は鏡越しの百合に見惚れていた。
自分も容姿には自信があるほうだったが、この女は、自分以上。女に見惚れたのは滅多になかったのに百合は格別。
「そういえば・・・あんた、その男の奥さんのこと、どこまで知ってんの?」
「え~っと・・・」
正直、るみ子は、答えられない。
「そう・・・・」百合は薄ら笑顔で、鏡越しにるみ子を見ると、
髪を整え、首元に甘い香水を吹きつけた。