「涙流れる時に」
美弥は病院へ来るといつも思い出す。

「百合・・・いないのか・・・」

病室に行っても百合には会えなかった。

一方、看護師たちが、慌ただしく話している。

「病棟にいた高城さん。また抜け出したんだって。もうやんなっちゃうわよ。」

「先生・・・高城さん。どうするんですか?」

「百合か・・・またいない?呼んで早く。」

携帯で百合を呼ぶ助手の看護師。

「百合・・・?」

美弥は確かに百合の名前を耳にした。

百合もまた心に傷を負っていた。

病棟を抜け出しては

幾度も過ちを犯してしまう。性依存。

「百合・・・?どこにいるんだ・・・」医師の斉木は何度もコールする。

「なんで、俺の元をいつも去っていくんだ。」斉木は困惑する。医師としても一人の男としても。

「俺が救う・・・百合の事、1番知っているのは俺しかいないから。」いつからかそんな想いに半ば、陶酔していた。

「百合は、またどこかで男と寝ているというのか・・・」

百合の元には男からのコールが絶えない。入院中は携帯も斉木がチェックしていた。

皆知っているから、百合の体が抜群なことを。「俺も・・・」百合を求めてしまった1度だけの過ちを今でも反省していた。

百合は何度も失敗を繰り返していた。残念なことに、2度ほど堕胎手術にも立ち会ってきた。

「でも、一緒にいたい。百合・・・戻ってきてくれ・・・」斉木は勤務時間が終わると、車を走らせた。

「今度は離さない。」車は新宿へ向かう。またあの街で埋もれてしまうから・・・
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