「涙流れる時に」
PM 6:00 銀座の個室レストラン。

るみ子と紗江は先に到着した。

「紗江ちゃん~。」紗江と飲み仲間の浩二が駆け寄ってきた。「おまたせ」

野田浩二。同じ会社で営業担当の25歳独身。夜な夜なコンパや飲み会の幹事をこなす、ある意味器用な男。

「紗江ちゃん今夜はありがとう。受付の子が2人も来てくれるなんて華があるよな~。

しかも、沢田さん。男性社員がみんな狙ってるんだぜ・・・」

るみ子は入社してから確かに人気があった。

食堂でランチをしていても、不思議と声はかかる。ところが、数々の飲み会やコンパ系をことごとく断ってきたるみ子。

まだ入社してから1年未満という「新人の域」を感じていたから。

変な噂はご法度だし、再起をかけたるみ子は、いつも以上に慎重になっていた。

「沢田さん。そんなに緊張しなくてもいいからね。」

浩二は持前の明るさで、趣味の話やペットの話をした。浩二は女子が好きなネタを巧みに使って和ませるのが得意だった。

そして何より、るみ子と浩二は同じ20代とあって、それもるみ子にとっては妙にリラックスできた。

「浩二く~ん・・・。」 「早いけど・・・前勝戦ってことで。」紗江の粋な掛け声に合わせて

「え?何々?それ・・・」浩二はまったく事情は掴めないまま

「乾杯。」

るみ子たちは、ほんの少しだけ早く、仕事帰りのお酒を楽しんだ。

まだ、店内はお客もまだらで、でも個室だから気兼ねなく、るみ子はなんだかお酒がすすんでしまう。

「るみ。もうすぐ来るね。」紗江からだった。

紗江には何でも話してる、るみ子の良き理解者で頼れる女。

「ドキドキするね。」

「私がドキドキするよ。あんた見てると。」

毎日るみ子は紗江に牧村の話をしていた。

そして、若き日の恋する乙女のように目を輝かせ、好きな人に会えることを夢見てきた・・・。

「ありがとね。紗江ちゃん。」きちんと段取りしてくれてる紗江に、るみ子は胸がいっぱいで・・・

「やだぁ・・・これからなのに。」紗江は、るみ子が目頭熱くそんなこと言ってるのが妙に嬉しくて

涙が出やしないか・・・るみ子を見つめながら、自分も、また、こみ上げる感情を抑えていた。

< 5 / 27 >

この作品をシェア

pagetop