さみしがりやのホットミルク
「お母さんね、病気になって、ずっと入院してたんだけど……自分がもうあまり長くないことをわかってたのか、あたしたちにいろんな話してくれたの」
「………」
「弟には、『女の子にはやさしくしなきゃダメよ!』って、叩き込んで。お父さんには、『どんなに仕事が忙しくても、子どもたちと接する時間はちゃんと作りなさい』って」
「……あんたには?」
そう訊ねた俺に、彼女はイタズラっぽく笑う。
「あのね。あたしには、『料理はちゃんとがんばらないと、男にすぐ逃げられちゃうんだからね!』、だってさ」
言いながら、ふふっと口元に片手をやる彼女に。
思わず、つられて小さく笑みが浮かんだ。
「……いい母さんだな」
「うん、大好きなの。あとね、これはみんなに言ってたことなんだけど……『いつも笑顔でいれば、自然と良いことも寄ってくるよ』って」
「………」
「これね、あたしの人生におけるスローガン。おかげで、『暗い』なんて言われたこと、1度もないからねー」
そう言ってにこにこ、やっぱり彼女は笑ってみせるけど。
「──、」
誰がその明るい笑顔の下に、母親を亡くした悲しみを押し込めていたことに、気付いていただろう。
何度その笑顔で、涙を隠してきたのだろう。
彼女の笑顔の理由は、とても健気で、とても切ない。
でも、だからこそ──こんなにも、人の心をあたたかく、包んでくれるのかもしれない。
「………」
「弟には、『女の子にはやさしくしなきゃダメよ!』って、叩き込んで。お父さんには、『どんなに仕事が忙しくても、子どもたちと接する時間はちゃんと作りなさい』って」
「……あんたには?」
そう訊ねた俺に、彼女はイタズラっぽく笑う。
「あのね。あたしには、『料理はちゃんとがんばらないと、男にすぐ逃げられちゃうんだからね!』、だってさ」
言いながら、ふふっと口元に片手をやる彼女に。
思わず、つられて小さく笑みが浮かんだ。
「……いい母さんだな」
「うん、大好きなの。あとね、これはみんなに言ってたことなんだけど……『いつも笑顔でいれば、自然と良いことも寄ってくるよ』って」
「………」
「これね、あたしの人生におけるスローガン。おかげで、『暗い』なんて言われたこと、1度もないからねー」
そう言ってにこにこ、やっぱり彼女は笑ってみせるけど。
「──、」
誰がその明るい笑顔の下に、母親を亡くした悲しみを押し込めていたことに、気付いていただろう。
何度その笑顔で、涙を隠してきたのだろう。
彼女の笑顔の理由は、とても健気で、とても切ない。
でも、だからこそ──こんなにも、人の心をあたたかく、包んでくれるのかもしれない。