さみしがりやのホットミルク
「よし、でっきた~」



そう呟きつつようやく満足したらしい佳柄は、俺からドライヤーを離すと今度は自分の髪を乾かし始めた。



「………」



それを眺めていた俺は、おもむろに、手を伸ばす。



「……貸して」

「えっ、え?」

「俺もやる」



目をまるくする佳柄の手からあっさりドライヤーを奪って、俺は彼女の後ろにまわり込んだ。

熱い風をあてると、彼女の髪がふわりと広がる。



「……くふふ。美容室以外で誰かに髪乾かしてもらうの、久しぶり」

「………」



こいつも俺と同じ気分を味わえばいい、と思って、やってみたことだけど。どうやら彼女は嫌がる様子がなく、むしろどこか楽しげだ。

期待した反応がなくて憮然としつつも、目の前の髪を乾かす手は止めないでいると、そのうち鼻歌までうたいだした。



「オミくん手おっきいねー」

「……普通だろ」

「えー、そうかなあ」



肩を越すほどの長さで、ちょっとくせのある彼女の髪は、やわらかい。

たぶん、1度も染めたことないんだろうけど……自前らしきその色は、少し明るめの茶色。

風をあてるたび、彼女の髪からは、ふわっとシャンプーの花のような香りがして。

目の前には、無防備な白いうなじ。



「………」



さりげなく、理性を崩しにかかってくるそれに。……やらなきゃよかった、と俺は少し後悔した。
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