さみしがりやのホットミルク
そんなことを考えつつ、ふぅ、とひとつ息をつき、俺は水道の蛇口をひねった。

バシャバシャと顔を洗って、うがいをして。こびりついた血や泥を洗い流す。

今回はあんまり顔にはくらわなかったけれど、やはり少しだけ、切れた口の端がしみた。


首にかけたタオルで顔を拭きながら、居間に戻る。

1Kの間取りの中には、小さなキッチン台に、テーブルに、ベッドとテレビ。

カーテンやタンスの上の小物など、そこかしこに、“オンナノコの部屋”といった印象を持たせるものがある。


ガスコンロの前に立っていた女は俺の姿に気付いて振り返り、なぜか「おかえりー」と言いながら、俺を四角いテーブルの前に座るよう促した。



「……タオルは……」

「ああ、洗濯機にポイしといてー」

「………」



言われた通りにタオルを洗濯機に入れて、テーブルの前に腰をおろす。

すると目の前に、コトリと小さな音をたてて、水色のマグカップが置かれた。

中身を見ると、少し黄色がかった白い液体が、湯気をたてていて。

ほわん、と甘いかおりが、鼻腔をくすぐる。

不意をつかれたような顔をした俺を見て、その女は小さく笑った。



「ホットミルクだよ。甘いのへーき?」

「……へーき……」

「ごはん炊けるまで、まだ時間あるしね。空きっ腹はよくないから、とりあえずそれ飲んでー」



再び背中を向けた女をちらりと一瞥した後、目の前のマグカップを両手で包む。

くん、とそのにおいを間近でかいでから、一口、飲み込んだ。
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