さみしがりやのホットミルク
「……たしかにもう、限界だな」



つぶやいて俺は、自嘲的な笑みを浮かべる。

……本当は、今日までに何度も、いっそ彼女にすべて話してしまいたい、という思いに駆られた。

だけど、言ってしまったら、もうここにはいられなくなる。

彼女のそばに、いられなくなってしまう。

それが、こわくて……結局俺は今日まで、彼女に自分のことを打ち明けられずにいた。


──そして。

あの笑顔を、見るたび。

彼女が無邪気に、俺に触れるたび。

俺はいつでも、佳柄のことを、自分のものしてしまいたくなる衝動に駆られてしまう。

その小さなからだを、むちゃくちゃに抱きしめたくなってしまう。


……今朝だって、彼女の栗色の髪から見え隠れする赤い痕を視界に入れた瞬間。どうしようもなく、昨晩の熱情がよみがえってきて。

佳柄の前では、なんでもないフリをしていたけれど。心の中では、暴れだしそうな劣情を抑えるのに、必死になっていたのだ。


再び押し黙った俺を横目で見て、となりを歩く光が、にやりと笑う。



「そうでしょうとも。おまえだって、いっそ清々しいくらいに健全な高校生男子だもんな?」

「うるさいな。……佳柄は、俺のことを信用しきっているから。それが逆に……苦しくなる、ときがある」

「まあ……オレから見ても晴臣、そうとうなつかれてたしなあ」

「……知らないから、あの子は」



俺は、彼女の言う“いい子”なんかじゃないのに。

彼女に対する、よこしまな想いは。どんどん、どんどん、大きくなっているのに。
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