鬼上司?と嘘恋から始めるスイートラブ
豊田さんの家に初めて連れて行ってくれた日の帰り道、課長が教えてくれた。

「だから、残業しないんですね?」

と言うと頭をコツンとこつかれた。どうやら総務は上からの命令で基本的には残業をするなと言われている。それともう一つ、課長らしい優しい思いやりの心があった。

「うちの部は主婦の人が多いし、帰ってから家事をしなきゃいけないし、上司が帰らないと帰りにくいだろ?まあ、繁忙期はさすがに無理だけれどな」


だから、平日は帰りに豊田さんの家で一時間ひたすら打ちまくって課長からオフに戻す。そして、平日はお風呂だけ入って帰る。


それは冴子さんのため。冴子さんが一人で淋しい思いをしていないか、心配だから平日は誘われても決して豊田さんの家でご飯を食べない。



その代わり、冴子さんが不定期で仕事が入ったり、予定がある土曜日は豊田さんの家でお昼ご飯を食べて夕方には帰る。



課長はどちらの家も本当に大切にしていた。


でも最近は引っ越してうちの向かいに住み始めてお父さんが冴子さんと一緒にいることに安心して平日でも豊田さんの家でご飯を食べたり遅くなったりすることもあるらしい。



「徹さんには本当に感謝してる」



自転車を二人乗りし、夜風に当たりながらポツリと課長は呟いた。



課長がそこまで冴子さんを心配する意味を考えなくもなかったけれど、その時はただいつもより少し近い距離でほんのちょっぴり課長に触れられていることにドキドキでいっぱいだった。
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