鬼上司?と嘘恋から始めるスイートラブ
「はいっ。これでも飲んで」

リフレッシュルームに着いて私を座らせると唯野さんはジュースを買ってくれた。ジュースなんて子どもみたい。唯野さんはコーヒーを飲んでいるのに。


「・・・すみません」


「いいのよ。誰だってあんなの見たくないわよね。私だって未だに旦那が美人に言い寄られてたらいい気しないもの」


「唯野さん・・・」


「でも、羨ましいわ。仕事が手に付かないくらい好きで仕方ないなんて気持ち、いつまでも味わえるものじゃないもの。結婚して出産なんてしたら特にね」


「でも、社会人なのに私情で仕事が手に付かないなんて・・・最低ですよね」

「そうかな?それより無理してミスがたくさん出るほうが最低じゃない?それだけ美晴ちゃんが自分に素直な証拠じゃない」


「でも、私高校生でもないのに、こんな片想いでただ見つめてるだけしかできないなんて・・・」

大人なのに全然大人じゃない。駆け引きなんて出来ないし、相手を振り向かせる方法もわからない。そのくせ嫉妬は一人前で、それで仕事も手に付かない。あたしの片想いはダメになるだけ。


「関係ないじゃない。年齢なんて。五十だって、六十だって片想いはするでしょ?ただ積極的かシャイかなだけじゃない?無理して変える必要ないよ。それが美晴ちゃんの片想いなんだから」


「私の片思い」


「それにね、片想いって意外と楽しみ方を覚えたら楽しいわよ。もちろん、その分辛い気持ちにもなるけれどその瞬間にしか味わえないことなんだからね」
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