「秘密」優しい帰り道【完】
じっと見つめながらそう言うと、
凪くんは苦しそうな表情で下を向いた。
「希未さんとの思い出を大切にしなよ。
大切な二人の思い出の続きに、私を繋げたらだめだよ。
希未さんのことを大切に胸にしまって、
凪くんは、新しい道を歩いて行かなくちゃ」
私が凪くんの肩を優しくトンと叩くと、
凪くんが苦しげな表情で顔を上げた。
「凪くんが心から笑える日がくることを、
私......祈っているから」
私は凪くんに笑いかけた。
「くるみ......」
よかった、笑って言えた。
ゆっくり立ち上がって、リュックの中からリボンのついた袋を取り出した。
「これね、バレンタインの日、凪くん休みだったから渡せなくて......
くるみの入ったチョコチップクッキー作ったの」
私は、凪くんの隣のベンチの上に袋を置いた。
「これを食べたら、
もう、私のことは凪くんの中から消して........
希未さんとの思い出を、私で汚したくない。
もう、優しくしないで。
もう声もかけないで。
私はそれで、いいから。
私とのことは、なかったことにしていいから……」
私は凪くんから目をそらして、
そこから勢いよく走り出した。
来た道を走って走って、
今までの思い出を全部消そうとした。
神社の鳥居の下で立ち止まって、上がった息を整えながら、
振り返った。
はあはあと、呼吸を整えながらしばらく公園からの出口を見つめた。
私、何期待してんだろう。
追いかけてきてくれるって、何期待してんの.......
追いかけてなんかこないよ........
消してって自分で言ったじゃん。
自分で言ったんじゃん........
下を向いたら、こらえていた涙が溢れそうになり、
ぐっと上を向いてこらえた。
鳥居の上に見える空は、今日も白い。
これでいいんだ.........
私は胸を抑えると、向きを変えて駅へと歩きだした。