「秘密」優しい帰り道【完】
凪くんは、ハッとして目をそらし、
下を向いてしまった。
「凪くん。
希未さんが車にひかれた時、凪くんも一緒だったんでしょ?
希未さんを助けようとして、
凪くんも、一緒に車にひかれて、
凪くんだけ助かったんでしょ?」
凪くんは、ずっと俯いたままだった。
「その事故の後遺症で、左足の膝が曲がりにくくなってしまって、
走れなくなってしまったんでしょ?
今も、痛みと戦っているんでしょ?
本当は、長い距離歩いちゃダメなのに、
歩けないのに.........
どうしてあの時、私を家まで送るって言ったの?
どうして、毎日毎日、
私を家まで送ったの........?」
凪くんは真剣な顔で顔を上げた。
「好きだからに決まってんだろ........
一緒に帰りたかった。
くるみと、歩きたいと思ったんだ。
気づかなかっただろ......足のこと」
ははっと、凪くんは無理に笑った。
足のこと、全然わからなかった。
ただ、ゆっくりと歩く人なんだなって思ったぐらいで.....
でも、今思い返すと、
階段を上らないところとか、
いつも足を伸ばして座っているところとか、
気づくチャンスはたくさんあった。
私は頷いた。
「気づかれたくなかった。
気を遣われたくなかったんだ。
でも、受験が終わったら、ちゃんと話そうと思ってた。
くるみの受験が終わるまでに、
なんとかもっと足がよくなるように、
良い医者見つけて、リハビリに通った。
くるみに足のことを、あまり重く受け止めてほしくなかったんだ。
少しでもよくなって、
なんだ、こんなの大丈夫だってくるみが思えるぐらいになりたかった。
事故の後、
こんなに、この足を治したいって、
もっと曲がるようになりたいって、思ったのが初めてだった。
もう、どうでもいいってずっと思ってたから。
もう、俺なんか生きている意味なんかないって、
ずっと思っていたから。
俺だけ助かってしまって、
ずっと、自分を責め続けていたんだ。
もう、誰も好きになれないって思ってたのに、
くるみと出会って、
どうしようもなく、くるみを好きになってしまって......
そのことで、希未に対して罪悪感を感じた時もあった。
でも、どうしてもくるみに対する気持ちを抑えることができなかった。
くるみと歩いていると、不思議と痛みを感じないんだよ。
いつまでも、歩ける気がした。
でも........」