「秘密」優しい帰り道【完】
私をまっすぐ見つめて、答えを待ってくれている。
凪さんが、私の名前を聞いてくれた……
「井川……くるみです」
目を合わせていられなくて、下を向いて名前を言うと、
目の前に凪さんの綺麗な指が近づいてきて、
肩紐を握りしめていた私の手首を掴んだ。
びくっとして、思わず凪さんの顔を見ると、
凪さんは私の手を見つめていて、
ゆっくりと私の手を下におろし、その手の上に冷たい缶を乗せた。
「はい、くるみの」
くるみ……
凪さんが、私の名前を呼んでくれた……
嬉しすぎる……
って、喜んでいる場合じゃなくて。
「そんな……わ、悪いので……」
凪さんは、ははっと笑った。
「素直に受け取りなさい」
私の顔をうかがうように、
下から顔を覗き込んでいる凪さんの瞳が、
あまりにも綺麗で、
優しくて......
「ありがとうございます」
そう言って、冷たい缶をそっと握ると、
凪さんは大きな瞳を細めた。
「どういたしまして」
私から手を離し、凪さんはぺこっと頭を下げ、
缶を開けてアイスコーヒーを飲んだ。
私は自分の手にあるリンゴジュースを持って考えてしまった。
目の前で飲むなんて緊張するし、
飲んでしまうのも、もったいないし、
でも飲まないのも、失礼だし。
「あ、あの......」