「秘密」優しい帰り道【完】
凪さんは、少し驚いたように振り返った。
「昨日は、すみませんでした」
私は凪さんに、ぐっと深く頭を下げた。
「あ......気にしなくていいよ。
俺もちょっと強引だったよな、ごめんな」
凪さんの優しい言葉にゆっくりと顔を上げると、
目が合って、ははっと凪さんが笑った。
その笑顔を見て思った。
もっと凪さんに近づきたい。
たとえ、秘密を抱えても......
「あの、えっと......」
「ん?」
なかなか言い出せないでいると、凪さんが私を見上げて、
首を傾げた。
「あの、私の家は川の土手を歩いて、橋を渡った先にあるんですけど、
橋のところまで、一緒に帰ってもらえませんか!」
ぐっと下を向いて凪さんの返事を待った。
どうしても、家を見られたくない。
隠したいことがあるから。
すごくわがままで勝手なのはわかっているけど、
諦めたくなかった。
隠してでも、繋がっていたかった。
凪さんがゆっくりと立ち上がった。
「行こ」
凪さんがベンチから歩き出そうとした時、
向かい側の人が凪さんの腕を掴んだ。
「凪、送るのか?」
「あぁ」
「凪、お前だって.....」
「潤平(じゅんぺい)」
凪さんが言葉を遮った。
「送ってくる。じゃあな」
凪さんが優しく微笑むと、向かい側の人は手をそっと離した。
その人の心配そうな表情が気になる。
凪さんに何を言おうとしていたんだろう......
言葉の続きが気になっていたら、
凪さんが私の頭にポンと大きな手を乗せて、私の横を通り過ぎた。
なんだろう、送ってもらって本当にいいのだろうか......
少し不安になりながら、凪さんの後を追いかけた。