「秘密」優しい帰り道【完】
差し出された紙をそっと受け取ると、
男の人のくせに、すごくきれいな字で名前と携帯番号が書いてあった。
【080‐××××‐×××× 五十嵐 凪】
いがらし......凪くんの苗字って五十嵐っていうんだ。
それにしても、きれいな字だな.......
「日曜でもいい?」
じっと紙を見つめていたら、凪くんがデートの予定を話し始めたから、
顔を上げた。
「はい」
「駅まで出てこれる?」
「駅.....はい」
「スタバあんのわかる?」
「あぁ......はい、わかります」
「じゃあ、そこの前に11時」
「11時.....」
「昼飯と映画。
何がいいか俺も考えるけど、くるみも考えといて。
じゃあ、日曜な」
私の頭をぽんぽんと撫でると、バッグを肩にかけなおしながら、
向きを変えて歩き出した。
昼飯と映画.......
凪くんとお昼ご飯を食べて映画を見て......
うわぁ......楽しみすぎる!
凪くんが書いた文字を見つめて、自分の胸にぎゅっとその紙を両手で押さえると、
自分の心臓がものすごくドキドキしているのが、両手に伝わってきた。
緊張した……
土手を歩く凪くんの後ろ姿をずっと見つめた。
また日曜日会える。
凪くんがまたスロープの前で振り向いてくれたから、
片手で紙を押さえながら、反対の手で思いっきり手を振ると、
凪くんはスロープを下りて行った。