「秘密」優しい帰り道【完】
いつもよりももっと大人っぽく見えるのは、
大きく首元が開いているからだろうか.......
それとも、
いつもよりもふわふわとワックスで盛られた黒髪のせいだろうか......
ぼーっと突っ立って見惚れてしまっていたら、
凪くんが吹き出して笑って、
一度下を向いてから、私の元に歩いてきた。
近くで見たら七分袖のカーディガンは黒ではなく濃いグレーで、
黒い腕時計をしている腕を伸ばして、ぎゅっと手を繋いできた。
凪くんの手の温もりを感じて、胸がきゅんと音を立てた。
こんなに大人っぽくてかっこいい凪くんの隣に、
こんな子供っぽい私がいて、不釣合いじゃないかと気になった。
「行こ」
私が小さく頷くと、凪くんは駅から歩いてすぐの、
映画館の入っているビルへと私を連れて行った。
中に入ると、ひんやりと汗が冷えた。
駅前にあるのは知っていたけど、入ったことがなかった。
私みたいなのが、買い物するようなところではないような気がしていたから。
だからこうして凪くんと手を繋いで、ここでデートしていることに、
すごく違和感というか、
私、変じゃないかな、大丈夫かなって気になった。
ビルの中を見回すと、洋服を見ている人たちが、
みんなお洒落で綺麗な人ばかりで、
だんだんと自分がみじめな気持ちになってきてしまった。
少し歩いてエレベーターの前で立ち止まると、ぱっと凪くんの手を離した。
「どした?」